2023年12月の埼玉県議会で、小早川一博県議が高次脳機能障害に関して一般質問をしてくださいましたので、ご紹介いたします。
▼埼玉県議会中継(23:25~ 小早川県議員の質問、50:38~ 福祉部長回答)
①地域支援ネットワークの構築について
「現在、世間の知識不足・医療機関の理解不足・専門医不足で診断不可・サービス提供機関への周知不足のため適切なサポートを受けられないという問題がある。
国が高次脳機能障害及びその関連障害に対する地域支援ネットワーク構築促進事業*1をスタートさせたので、埼玉県も積極的に活用すべきではないか。」という質問をしてくださいました。 (現在、埼玉県は手を挙げていませんので、本事業は受けていません)
福祉部長の回答は、
・埼玉県総合リハビリテーションセンター(以下、県リハ)内に高次脳機能障害者支援センターを設置して支援している。
・精神障害にも対応した地域包括ケアシステム*2を構築するよう各市町村に伝えているので、このネットワークを使えばよい。
というものでした。
*1 厚生労働省 令和5年度予算概算要求の概要(障害保健福祉部)から抜粋
*2 厚生労働省 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築イメージ図
②高次脳機能障害の早期診断と就労支援について
「 どのように支援していくのか?」という問いに対し、福祉部長の回答は以下の通りでした。
早期診断について
高次脳機能障害に対応できる医療機関として87か所登録があるが、実際に診断できる医療機関は多くない。診断できる医療機関を増やすため県リハで研修をしている、との回答でした。
▼高次脳機能障害に対応できる医療機関の一覧表(令和5年2月1日現在)
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/20853/koujinouiryoukikanrisuto050301.xlsx
就労支援について
県リハで支援をしている、との回答でした。
③ピア・カウンセリング事業について
「埼玉県西部地域で適切なサポート体制ができていないがどう考えているのか」と質問したところ福祉部長の回答は「市によって協力的ではないところがあると聞いているので、協力するよう声をかけていく。」というものでした。
上記一般質問の答弁を聞いて感じたことは以下の通りです。
①地域支援ネットワークの構築について
支援拠点機関として県リハがあるということですが、埼玉県の人口(2023年1月)は、全国5位の717万人に対し、支援拠点機関は県リハ1か所のみで、全国順位は45位*3です。
※3 厚生労働省 地域精神保健福祉資源分析データベース(ReMHRAD)より
また、国の「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」及び「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」に基づいて、埼玉県が多様な精神疾患等ごとの医療機関の医療機能一覧を作成しています。その一覧から高次脳機能障害は除外されています。県リハのサイトから対応できる医療機関一覧を見ることはできますが、多様な精神疾患等ごとの医療機関の医療機能一覧から除外されているから、様々な研修・連携が進まないのではないかと感じます。
1年間の高次脳機能障害発症は20~30人/人口10万人*4と想定すると、埼玉県は1,400~2,100人/年 増えている換算になります。
ちなみに、県リハ1か所と相談窓口2か所の令和4年度の相談実績は新規594件*5でした。
(春日部市の令和4年度実績は5件(想定発症人数40~70人/年)からすると、埼玉県の実績は予想以上に多かった)
県リハは啓蒙活動のためパンフレットを作ったり、研修したり、相談受けたり頑張っていると思いますが、「世間の知識不足・医療機関の理解不足・専門医不足で診断不可・サービス提供機関への周知不足のため適切なサポートを受けられないという問題」は解消していません。
県リハだけに任せておけば良い問題ではないと思いますけど、埼玉県はどう考えてるのでしょうか。
ぜひ地域支援ネットワーク構築促進事業を積極的に取り入れて、医療関係者や各市町村への理解を促すため啓蒙活動に力を入れていただけたらと思います。
※4参考資料:日本の高次脳機能障害者の発症数 - J-Stage
②高次脳機能障害の早期診断と就労支援について
早期診断について
実際に私も登録されている病院にかかっていましたが、科が違ったためか、高次脳機能障害の「こ」の字も言われずに、受傷後13年間苦しみました。医療関係者への研修実績を確認したところ、令和5年度(2023年12月26日現在)は0回!(メールで県リハに問い合わせ済み)
患者にとって、気付ける一番のチャンスは主治医からの指摘です。なんとしても医療関係者への研修はやっていただきたい。準備中とのことなので、令和6年の実績を注視していきたいと思います。
就労支援について
就労定着支援は県リハから就職した方が対象のようです。
高次脳機能障害者就労アシストは、高次脳機能障害者の就労に関する支援を行っている地域の関係機関にアドバイスしてくれる支援のようです。
就労定着支援は県リハのみなので、地元の支援機関を使う方が多いと思います。多くの支援機関が就労アシストを活用してくれることを切に願います。(令和4年度の実績報告には書いていないのが気になる…)
③ピア・カウンセリング事業について
2023年現在、ピア・カウンセリング実施団体として登録されているのは NPO法人「地域で共に生きるナノ」(三郷市)の1団体です。以前は「ナノ」は県東部を、別団体が県西部をサポートしていましたが、現在は「ナノ」1団体しかありません。そういう意味での質問と思われますが、福祉部長の回答からは1団体のみであることに問題意識はないようです。
私が高次脳機能障害を取り巻く環境で一番問題だと考えているのは、医療機関の認識が弱いことです。
高次脳機能障害という障害はポピュラーではありません。
高次脳機能障害の症状の1つとして「病識欠落」があり、医師に言ってもらわないと気付けない可能性が高いと思います。
特に、脳卒中等は脳神経外科やリハビリテーション科の医師が担当することが多いと思うので問題はないかもしれませんが、それ以外の医師には高次脳機能障害の知識が薄いのか、高次脳機能障害にたどり着くまで13年もかかりました。(しかも家族発信)
なので、県リハには医療機関への研修に注力してほしい。できれば県リハと同等の機関を県の東西に設け、県全域をしっかりサポートしてほしいと願います。
また、医療関係は県の管轄なので、県から医師会に働きかけていただけるよう今後も県議会議員さんには問題意識を持って取り組んでいただければと思います。